SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

星野源(2015)『YELLOW DANCER』

俺、すごいことに気づいちゃったかもしれない。「なに? どうしたの?」 星野源ってさ、たぶん2010年代の小沢健二なんだよ。「はあ」 今までミュージシャンとしての星野源を全然知らなくて。ほぼ唯一の接点が、木皿泉のドラマに出てたのを観たくらいだったんだよね。『昨夜のカレー、明日のパン』、仲里依紗が主演の。それだって七年前に死んじゃった夫の役だから、ほとんどセリフがなくて。その時の印象は薄かった。ミュージシャンなのは知ってたけど、あんまり縁のない人だって食わず嫌いで済ませてたんだよね。で、またドラマ絡みになっちゃうんだけど、フジの『心がポキッとね』の主題歌が〔SUN〕だったじゃない。メロディのキャッチーさは言うまでもないとして、コーラス終わりに入ってくるアナログシンセのジリジリした質感が妙に格好いいと。そこで初めておおっと思って、気になりはじめた。頭から聴き直すと、イントロがまさにそのシンセのズズーって音なんだよね。意識しだしたら、星野源、ほんとうにいたるところで出くわす出くわす。本屋じゃ平積みだし、バラエティ番組でもみかける。文字通りのマルチな活躍ぶりだと。そして、文化系女子に熱狂的に愛されている(笑)。そのあたりで頭をよぎりました、彼のことが。全盛期のオザケンとその周囲って、もしかしてこんな感じだったのかもと。ふっふっふ。「……一応、終わりまで聞こうか」 二人ともグループでミュージシャンデビューして、ソロシンガーへ転身というキャリアパス。そこにきて今回のアルバムでしょ。ブラックミュージックのオリジナルな翻案が評判の『YELLOW DANCER』。一方の小沢健二も『犬は吠えるがキャラバンは進む』から早々に黒くて、『LIFE』はスライ&ザ・ファミリー・ストーンへのリスペクト、さらにブラック路線の決定打として『Eclectic』がある。もうオザケンにしかみえないよ。ね? 「延々しゃべらせといて悪いんだけど、『星野=小沢』説って、かなり前から言われてるよ」 え……そうなの? 「うん。しかも一人や二人じゃなくて、けっこうみんな言ってる」 そ、そっか。やっぱり考えることはみんな同じなのかもね。「オレはむしろ、今回改めて、星野=細野晴臣なんだなって思ったけど」 ああ〜、細野さんって星野源のタニマチだもんね。日経ビジネスの特集記事でもベタ褒めしてたし。「『YELLOW DANCER』のジャケット自体、YMOへのオマージュじゃん。間違いなくファースト(US版)を意識してる。ハンガーに着物引っかかってるよね」 アレそういうことなんだ!? 全然気づかなかった。「まずそうだと思うよ。で、YMOといえば、結成当初の青写真になったのがマーティン・デニー〔Firecracker〕のカバーなわけだけど、原曲を収録した彼の『Quiet Village』というアルバムに、その名も〔Sake Rock〕という曲が入っている」 えー! あのジャケからYMO経由で、バンド名の由来までたどれちゃうんだ(笑)。音楽性としても細野テイストあるの、今回? 「あるある。M5〔Soul〕なんかまさにそうで。トロピカル三部作あたりの細野、思いっきり」 良かったよね、〔Soul〕。コーラスのベースラインがジャクソン5の〔I Want You Back〕っぽくて最高。アルバムで一番好きかも。細野晴臣ちゃんと聴いてみたくなってきた。「一枚通して聴くと、星野源、そりゃ人気出るわっていう納得の仕上がりだったね」 文筆業、エッセイなんかも面白くてまたニクい。下ネタ全開の愛されキャラといえば、先人は福山雅治か。「不謹慎かもしれないけど、病気から奇跡のカムバックストーリーはミスチルの桜井和寿だし」 物語性も備えていると。まさに全方位対応。しばらくは星野源の時代が続くね。こりゃもうライブ観に行くしかないよ。

YELLOW DANCER (通常盤 初回限定仕様)

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