SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

The Mirraz(2014)『OPPORTUNITY』

ザ・ミイラズのメジャー2枚目となるアルバム『OPPORTUNITY』が昨年10月にリリースされた。彼らは2006年に結成されたロックバンドである。メンバーの加入と脱退が複数回あったものの、全楽曲の作詞・作曲・編曲を一手に引き受ける畠山承平(Vo, G)が絶対的な核を成す体制は一貫している。畠山以外のメンバーはギター、ベース、ドラムが各1名というオーソドックスな構成だ。『OPPORTUNITY』という作品に近づくうえで参考となるのが、ホームページ上で閲覧可能な畠山によるアルバムの全曲解説である。たとえばアルバム3曲目の「i luv 日常」について彼はこう語っている。

歌詞は「普通が一番」という「実は一番難しい人生の問い」をテーマに書いてる。普通っていう基準値を決めるのは自分なのか、社会なのか。海外に行けば日本で「普通」なことが普通じゃないしね。普通という概念を自分で決める事はすでに普通じゃない気がする…。(中略)オレ的には「宮藤官九郎」的な表現手法が使われてると思ってる。

たしかに歌詞の世界観はクドカンに通じるものがある(じぇじぇじぇ♪ という合いの手も入っている)。「日常に帰ろう日常に 普通でいい普通最高」という一節はかなりストレートだ。宮藤は『木更津キャッツアイ』(02)において、余命半年の宣告を受けた主人公が、残された日々を友人たちと《普通》に過ごしていく姿を映し出した。これはテレビドラマの手法としては革新的なものだった。余命半年という設定ならば、それをドラマチックに、非日常的に描くのが普通とされていたからである。つまり畠山は、かけがえのない普通の再発見という文脈に「i luv 日常」を置いている。この曲には途中、「普通でいよう 普通でいよう 普通でいよう 普通で異様」と、事なかれ主義に納まろうとすることこそ、実は傲慢でグロテスクな態度ではないかという自己懐疑が差し挟まれるのだが、そのアンビバレンスはすぐに、「君がいる それは当たり前のようで 完全に異常事態 当たり前こそが異常事態」という日常礼賛へと回収される。ここで物足りなさを感じるリスナーは、シニカルで攻撃的というミイラズのパブリックイメージに囚われているのだろう。だが、アルバム10曲目の「レイトショーデートしよう」に寄せられた解説からもわかるように、現在の彼らはそうした期待に応えようとしていない。

これはこのアルバムでミイラズが一番やりたかったこと。メンバーも全員お気に入りの曲。(中略)歌詞も俺が一番好きなパターンで、「大げさな事を歌うんじゃなくて、身近にあって、気付く事そのものに真理を感じる」ような歌詞。この曲が伝わらないと困っちゃうんだけどねー。

18才そこそこのカップルが初めてレイトショーに行った一夜のドキュメントである。「レイトショーは最高にドラマチック 大人になった気分だぜ」。歌われるのは日常の中にあるドラマ性だ。このフレーズに「i luv 日常」の「僕らはちょっとだけドラマを求めすぎている そう、僕らはちょっとだけドラマを求めすぎている」という歌詞を並べてみるとどうだろう。ありもしないドラマに憧れていないで日常に帰ろうと語りかけていた畠山は、同時に、レイトショーに最高のドラマを感じ取ってもいる。そこに矛盾があるなどと言いたいわけではない。けれど、ドラマを捨てるにしろ見出だすにしろ、結局は日常の往還にとどまっているという事実が、このアルバムの印象を息苦しいものにしている。日常に対して細かな観察を施すのは、外へ出られないからではないか?

『OPPORTUNITY』を心地良く感じる人もいるだろう。もちろん構わない。最悪な意味でのマイルドヤンキー的な磁場に足を取られないよう、ただ祈るばかりだ。

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