SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

ロロ(2015)『いつだって窓際であたしたち』@STスポット横浜

ロロは今回、新たに「いつ高シリーズ」をスタートさせた。舞台となる〝いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校〟の名称は、小沢健二の楽曲にあやかったものである。高校演劇のフォーマットに即して作られていることがシリーズの特徴だ。すなわち「上演時間は60分以内、装置設置撤去30分以内とする」などの制約を、進んで受け入れているのである。主宰の三浦直之によると、シリーズのテーマは〝まなざし〟だという。第一弾の『いつだって窓際であたしたち』は、こんなふうに始まる。シューマイと呼ばれる男子がじぶんの席にもどってくると、知らない女子がそこにすわっている。寝ている。シューマイは呆然と女子をみつめる。教室から外へと向けられるまなざしもある。女子は校庭を一望できるその席が気に入ったらしく、そこから校庭のトラックを走りまわる「たろう」という別の男子のことをみている。シューマイもちらちらと窓の外をながめる。どことなく『桐島、部活やめるってよ』を思わせる場面だ。吹奏楽部員で地味なタイプの沢島(大後寿々花)は、教室で前の席にすわる宏樹(東出昌大)に思いを寄せている。けっきょく彼女の思いが叶うことはなく、沢島と宏樹が直接には視線を交わすことのないまま、映画は終了する。しかし、ある意味ではふたりがそれを交えていたといえるシーンがひとつだけあった。ホームルームの時間、窓際の席、宏樹がなにげなく外の景色に目をやり、視線の先を沢島が追う。その瞬間、教師の話し声も物音も、数秒にわたりすべて聞こえなくなる。沢島がいつか高校時代を振り返ったとき、思い出すのはきっとこの情景になる。さて、本公演のタイトルには『いつだって窓際であたしたち』とある。それにつづく言葉はどんなものだろう? たとえば、いつだって窓際であたしたちは「おしゃべりしている」、という言い方は、文法的になんら問題がないとしても、どこか収まりが悪い。それよりは、いつだって窓際であたしたちは「おしゃべりしていた」、のほうがずっとしっくりくる。三浦はタイトルに、あとから振り返ったときの高校生活、というニュアンスをまとわせている。そう考えればシリーズの命名にあたり小沢健二が召喚されたことも、偶然とは思えない。『日本のロック名盤ベスト100』のなかで川﨑大助は、〔愛し愛されて生きるのさ〕を収録した『LIFE』についてこう語っている。「第一の特徴は、やはり、過去の名曲や名演の引用や模倣の数の多さだ。まずアルバム・タイトルそのもの、タイトルやアーティスト名のロゴ・デザインまで、アメリカのスライ&ザ・ファミリー・ストーンの六八年の名盤の「そっくりそのまま」であるところから始まって、曲や詞やアレンジについても同様だった」。1968年。なにかと神格化されやすいこの年は、ロックミュージックにとっても最良の季節だった。社会変革への意志とともに音楽がシェアされていた。1960年代をロックの青春時代とみなすこともできるだろう。小沢はスライの『LIFE』を、理想に満ちていた時代のシンボルとして自身のアルバムに引用した。そして三浦は、ありえたかもしれない(実際にはなかった)青春時代を小沢の『LIFE』に投影する。スマートフォンやグーグルストリートビューといった現代的な小道具のせいでわかりにくくなっているが、『いつ窓』は、失われた過去をめぐる一時間なのである。小沢がスライに、いまでは〝失われたもの〟を感じとったように、三浦が小沢を聴いてそれを反復したように、私たちは『いつ窓』にノスタルジーを覚える。ただし、〝失われた〟という感覚は、それが過去に存在したことを保証するものではない。作中、シューマイがiPhoneでBABYMETALの〔ギミチョコ!!〕を聴いていることから、観客は、舞台が現代であるという印象を受ける。スマホ・グーグル・ベビメタ。だからこそ、終盤でサニーデイ・サービスの九六年の楽曲〔真っ赤な太陽〕が登場したときの違和感には、くれぐれも注意を払いたい。現代の高校生であるはずのシューマイたちが、「なんかCMとか」で聞き知ったらしい〔真っ赤な太陽〕を高らかに歌い上げる。発表年に正確を期すならば、時空が歪んでいる。この瞬間、〝失われた〟感覚のいくらかは、私たちが美化し、新たに創り上げたものだということが強く意識されてくる。青春を扱った明るく楽しい『いつ窓』は、ここにいたって意外な苦味を残すのである。だがそのギャップが良い。このくだりがなければ、作品の魅力は半減していた。ふたたび川﨑の言葉を借りてレビューを終えよう。〔真っ赤な太陽〕が収録されたアルバム『東京』について。強調は筆者が付した。「最大の武器は「架空のノスタルジー」だったか。自ら体験したこともない、六〇年代や七〇年代の空気を、執拗に再現しようとするかのような楽曲とサウンド・プロダクションだった」。

LIFE

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  • アーティスト: 小沢健二,スチャダラパー,服部隆之
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 1994/08/31
  • メディア: CD
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