SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

2014-01-01から1年間の記事一覧

柴崎友香(2014)『春の庭』

この作品にはいくつかの、時間を超えたアイテムが登場する。主人公・太郎の父の遺骨を粉にしたすり鉢と乳棒、水色の外壁の家を二十年以上前に収めた写真集「春の庭」。トックリバチの巣や、旧日本軍の不発弾、ソファの隙間から出てくる乳歯といったものもあ…

山田太一「よろしくな。息子」(TBS系『おやじの背中』第七話)

第七話。毎週リアルタイムで作品に接している視聴者であれば、そろそろ飽きが生じてくるタイミングかもしれない。序文で書いたような感動のインフレーションも起きてくる。ありきたりな展開では物足りなくなってくるのだ。何か、別のものを。山田太一はそん…

橋部敦子「父の再婚、娘の離婚」(TBS系『おやじの背中』第六話)

私はいまのところ結婚していないし、子どもを持ったこともない。これからそういう選択をするかどうかもわからない。けれど、もしいつか子を授かり育てることになったとき、これだけは絶対に言うまいと心に決めている言葉がある。それは、あなたのためだから…

倉本聰「なごり雪」(TBS系『おやじの背中』第三話)

映像制作には「ヒッチコックの法則」という決まりごとがある。カメラフレームに占める対象の大きさが、その時点における対象の重要性を示す、というシンプルな法則である。対象は人物に限らない。第三話「なごり雪」の場合、それは耳だ。ドラマは小泉金次郎…

脚本家たちのバトルロワイヤル —TBS系『おやじの背中』全話レビュー 序文

日曜劇場『おやじの背中』は、十人の脚本家による一話完結一時間のオムニバスドラマである。かつて日曜劇場は民放唯一の単発一時間ドラマだった。それが連続ドラマ枠に替わったのは一九九三年のこと。さまざまな事情があったのだろうが、ひとつには、ある回…

渡辺あや(2014)『ロング・グッドバイ』

最終話でいっきに射程が伸びた。正力松太郎がモデルの原田平蔵(柄本明)は新聞資本のテレビ局、自民党政治、原発の積極推進という戦後日本の両義的な表象を一手に引き受ける存在。その正力=原田の強大さに、増沢磐二(浅野忠信)のもつ友情・信頼・仁義と…

家族をめぐるイデオロギー対立のゆくえ ―坂元裕二『最高の離婚Special 2014』

昨年1~3月期に放映されたドラマ『最高の離婚』について、私は以前、次のように書いた。『それでも、生きてゆく』の脚本家が、これほどすっきりしたハッピーエンドを認めたことに、釈然としない思いは残る。(略)今回は視聴者と幸福な関係を取り結んだよ…

よみがえる「砂の女」 —小山田浩子(2013)『穴』

一人称小説である。主人公の「私」は非正規雇用で会社勤めをしていたが、夫の転勤で同じ県内にある彼の実家のとなりに引っ越すことになった。「私」はなにを語るにも一歩引いていて、強い関心を持っている対象もなければ、人知れず欲望をためこんでいるわけ…

「役者」という矛盾したできごと ―映画美学校アクターズ・コース修了公演(2014)『美学』

『美学』の舞台はプロの漫画家を目指すための専門学校。この公演は映画美学校アクターズ・コースに通う生徒たちによるものであり、並行性はスタート地点から明らかだ。公演中、彼らは修了創作に取り組むことになる。それは漫画コンクールに応募する作品の制…

アルフォンソ・キュアロン(2013)『ゼロ・グラビティ』

『ゼロ・グラビティ』は表面的にはテクノロジーに多くを負った映画のように見える。サンドラ・ブロック演じる女性技術者は予期せぬスペースデブリ(宇宙ごみ)の大群に見舞われ、乗船中のシャトルが大破。デブリの直撃を受けた同僚は顔面に大穴を開けて絶命…