単純接触効果というものをご存知だろうか。人は数多く見聞きする対象に好意や関心を抱きやすいという考え方のこと。最初は絶対にありえないと思っていた多部未華子が、いつの間にかやたら可愛く見えてくるという、例のアレだ。同様にテレビ番組のタイアップ…
1985年だ。筆者もピンポイントで作者と同い年の生まれ。なので自然、出てくるアイテムや出来事にいちいち懐かしさが止まらない。シンクロできすぎて、例えばこれを1975年生まれの人や1995年生まれの人が読んだらどう感じるのか、心配になってし…
俺、すごいことに気づいちゃったかもしれない。「なに? どうしたの?」 星野源ってさ、たぶん2010年代の小沢健二なんだよ。「はあ」 今までミュージシャンとしての星野源を全然知らなくて。ほぼ唯一の接点が、木皿泉のドラマに出てたのを観たくらいだったん…
ロロは今回、新たに「いつ高シリーズ」をスタートさせた。舞台となる〝いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校〟の名称は、小沢健二の楽曲にあやかったものである。高校演劇のフォーマットに即して作られていることがシリーズの特徴だ。…
まったく知りませんでした、3776(みななろ)。こんなキテレツな音源がふつうにリリースされていたとは。日本レコード協会によると2014年に発売されたCDの新譜数は15,996点(すべて12cm、シングル・アルバムの合算)。ピークを過ぎたとはい…
年末ぎりぎりになる前に、思いついた順に年間ベストを挙げていきたい。— vampire_empire (@vampire8empire2) 2015, 12月 16 【ベストテレビドラマ】 古沢良太『デート 〜恋とはどんなものかしら〜』:依子と巧の人物造形はすごくデフォルメされているはずな…
2015年がもうすぐ終わろうとしている。リアルタイムの音楽を追いかけるリスナーにとって、年末年始はひときわ慌ただしい季節だ。音楽誌やブログで年間ベストチャートの類が次々に発表されるからである。思わぬ拾い物に口もとがほころぶ一方、欲しいもの…
ロシア人監督による一七七分間のモノクロSF映画、と聞いて思わず身構えてしまった。途方もなく難解で、救いがたく退屈な作品ではないのか。いたずらに観念的だったりはしないかと。そうした懸念の半分は当たっていて、半分は外れていたと言える。『神々の…
美術家・会田誠と彼の家族によるユニット「会田家」の作品が撤去要請を受けた騒動で、一躍耳目を引くことになった企画展である。美術館側は公式見解を示していないが、七月二十五日付の朝日新聞デジタルによれば「撤去は要請していないと話している」という…
ひとくちにDJといっても連想するものは人によってバラバラ。ラジオの司会者に『フルハウス』の子役、グローバルにメジャーな株価指数を算出している通信社もあれば、斯界では「鉄道ダイヤ情報」という月刊誌が有名だったりするらしい(表紙には太字でDJ…
イシグロはこれまでも作品ごとにスタイルを大きく変える作家として知られてきた。『わたしを離さないで』はSFの要素を大胆に盛り込んだ作品だったし、『充たされざる者』は底なしの不条理を描くリアリズム度外視の意欲作だった。それゆえ、実に十年ぶりと…
ずっとアンドリュー・ニコルについて書きたいと思っていた。大学に入りたての頃、暇に飽かせて手当り次第に映画を借りた。当時観た作品の内容はもうほとんど忘れてしまったが、『ガタカ』と『トゥルーマン・ショー』だけは、いつまでも頭の片隅に残っていた…
池袋HUMAXシネマズで『テラスハウス クロージング・ドア』を観てきた。公開からしばらく経った平日夜の回ということもあり、人の入りはまばら。劇場のエレベーターに乗った時点でうすうす予感していたが、ひとりで来たのはどうやら自分だけのようだ。た…
あくまでクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)という一人の男の描写に留まろうとする、強い意志。それが『アメリカン・スナイパー』の特徴だ。この作品においては、何が起きていたのかを正しく知りたい、出来事を総体として俯瞰したいという欲望が、厳…
岩松了による岸田賞受賞作。上演は実に二十七年ぶりだという。不明を恥じなくてはならないが、今回の舞台を観るまで、私は岩松氏のことをまったく知らなかった。事前に予習しておこうと思いネットで検索をかけると、岩松氏と、演出を手がけた松井周氏の対談…
(結末部分についての記述を含みます) 語り手の立ち位置のわかりにくさをどう受け止めるか。その一点で評価の分かれる作品である。その手法に必然性と説得力を感じれば、自然と評価は高いものになる。逆もまた然り。物語はこんなふうに幕を開ける。「わたし…
ライター、編集者の九龍ジョーによる初の単著。評論やインタビュー、座談会など媒体を越えて九龍の仕事がまとめられている。彼はまえがきで言う。ポップカルチャーについて書くことで、自分がどう社会とつながれるのかを考えていた。対象はばらばらでも、そ…
高校生の頃コンビニでアルバイトをしていた。650円という地域別最低賃金を10円刻みに丸めただけの時給と引き換えに、あたら青春を安売りしてしまった感は否めない。が、当時その判断に迷いはなかった。バイト代でとにかくCDを買いたかったのである。1…
都内の証券会社をリストラされ故郷に帰ってきた常末理市(永山絢斗)。町はギャラクシーズというAVメーカーが進出してきたことで雇用が生まれ、にわかに活気づいていた。自身もギャラクシーズで働くことになった理市は、社長の九井(高橋一生)にこう告げ…
私たちの身の回りにはさまざまなモノがあふれている。そうしたモノたちは、それらしい形状をまとって生活に溶け込んでおり、個別に意識の対象となることはほとんどない。たとえば、誰もが知っている「たこ焼き器」を思い浮かべてみよう。正方形や円形の鉄製…
デモクラティアという言葉の語源は、ギリシャ語のデモス(民衆)とクラティア(支配)である。ここに状態や性質を示す接尾辞の「-cy」が加わると、私たちにも馴染みのあるデモクラシー、すなわち民主制が現れる。私たちの多くは、民主政治という体制を所与の…
かつてパイロット兼エンジニアとしてNASAに在籍していたクーパー(マシュー・マコノヒー)は現在、不本意ながら田舎町で農業に従事している。劇的な環境変化によって農作物が次々と疫病にかかり、食糧確保が人類の死活問題となったためだ。宇宙開発にコ…
ザ・ミイラズのメジャー2枚目となるアルバム『OPPORTUNITY』が昨年10月にリリースされた。彼らは2006年に結成されたロックバンドである。メンバーの加入と脱退が複数回あったものの、全楽曲の作詞・作曲・編曲を一手に引き受ける畠山承平(Vo, G)が絶対的…
多くの読者は「純文学とエンタメの異色コラボレーション」という誘い文句に惹かれて、この本を手に取るのだろう。彼らはすでに阿部和重ないし伊坂幸太郎のどちらか(もしくは両方)の愛読者である可能性が高い。この小説最大の不幸は、彼ら自身のすぐれた作…
この作品にはいくつかの、時間を超えたアイテムが登場する。主人公・太郎の父の遺骨を粉にしたすり鉢と乳棒、水色の外壁の家を二十年以上前に収めた写真集「春の庭」。トックリバチの巣や、旧日本軍の不発弾、ソファの隙間から出てくる乳歯といったものもあ…
第七話。毎週リアルタイムで作品に接している視聴者であれば、そろそろ飽きが生じてくるタイミングかもしれない。序文で書いたような感動のインフレーションも起きてくる。ありきたりな展開では物足りなくなってくるのだ。何か、別のものを。山田太一はそん…
私はいまのところ結婚していないし、子どもを持ったこともない。これからそういう選択をするかどうかもわからない。けれど、もしいつか子を授かり育てることになったとき、これだけは絶対に言うまいと心に決めている言葉がある。それは、あなたのためだから…
映像制作には「ヒッチコックの法則」という決まりごとがある。カメラフレームに占める対象の大きさが、その時点における対象の重要性を示す、というシンプルな法則である。対象は人物に限らない。第三話「なごり雪」の場合、それは耳だ。ドラマは小泉金次郎…
日曜劇場『おやじの背中』は、十人の脚本家による一話完結一時間のオムニバスドラマである。かつて日曜劇場は民放唯一の単発一時間ドラマだった。それが連続ドラマ枠に替わったのは一九九三年のこと。さまざまな事情があったのだろうが、ひとつには、ある回…
最終話でいっきに射程が伸びた。正力松太郎がモデルの原田平蔵(柄本明)は新聞資本のテレビ局、自民党政治、原発の積極推進という戦後日本の両義的な表象を一手に引き受ける存在。その正力=原田の強大さに、増沢磐二(浅野忠信)のもつ友情・信頼・仁義と…