SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

2013-01-01から1年間の記事一覧

綿矢りさ(2013)『大地のゲーム』

綿矢りさがこんな作品を書く日がくるなんて想像もしていなかった。新作の舞台は震災を契機に学生たちが住みつくようになった大学のキャンパス。といってその地震は、すぐに思い当たるところの東日本大震災ではない。登場人物の父親による、「おれたちの昔経…

宮沢章夫(2013)『夏の終わりの妹』

いったいなぜこんなものを作ろうと思ったのか。アートにしてもエンタメにしても、そうした問いに駆られることは少なくない。そうした疑問はいくつかの水準に分かれているようだ。ひとつには、そもそもの創作の発端を問うもの。作家にはどんな動機があったの…

燃える箱庭 松家仁之と宮崎駿の想像力

『崖の上のポニョ』以来5年ぶりとなる宮崎駿監督作品は、ポール・ヴァレリーによる詩の一節で幕を開ける。実在した人物である堀越二郎。彼が試行錯誤を経て零式艦上戦闘機(通称・ゼロ戦)の設計に成功しながらも、押し止めようのない時流の中で敗戦を迎え…

三木聡(2013)『俺俺』

コミュニケーション能力。リレーション構築。フェイスブックで友だち申請。毎日の人づきあい、いいかげん疲れませんか。私はもう何もかも嫌になりました。現代社会に生きるわれわれの労働の対価。その多くを感情労働に対する支払いが占めています。つまりは…

ジュリアンのファルセットと突き抜けた明るさが新鮮な一枚 ―The Strokes(2013)『Comedown Machine』

ザ・ストロークスは今やほとんど見かけなくなった「物語」のあるバンド。とはいえその内実は聞こえの良いサクセス・ストーリーばかりではない。デビュー作の『IS THIS IT』(01)は2000年代前半のロックンロール・リバイバル・ムーブメントを代表する歴…

村上春樹(2013)『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

これは『ノルウェイの森』の変奏曲ではないか。まずは登場人物に与えられた名前が、そうした連想を誘ってくる。主人公の多崎つくるが高校時代に親しかった四人の仲間は、みな姓に色を含んでいた。アカ、アオ、シロ、クロ。五人組のなかで、つくるだけが「色…

最高のレクイエム ―坂元裕二が『最高の離婚』で葬送したものたち

関連エントリ:家族をめぐるイデオロギー対立のゆくえ —坂元裕二『最高の離婚Special 2014』 『最高の離婚』の制作がアナウンスされたとき、まず目を引かれたのはキャスティングの妙だった。尾野真千子と真木よう子といえば、映画『外事警察 その男に騙され…

【メンバー募集】私たちと一緒に革命を起こしませんか? ―映画美学校アクターズ・コース修了公演(2013)『革命日記』

大学に入学したてのころ、文字どおり「右」も「左」もわからなかった私は、とある勉強会に出入りしていた。いまになって振り返れば、あれは学生運動の組織だったのだとわかる。当時は自衛隊のイラク派遣や格差社会がことごとく非難されていた。そういった主…

『あ、ストレンジャー』がいざなう解釈のワンダーランド

◆しっぽを失くしたウロボロスマームとジプシーによる公演『あ、ストレンジャー』を吉祥寺シアターで観た。タイトルの「あ」とは、ふいに誰かがストレンジャー=よそ者=異邦人として立ち現われてくるときの驚きを示した感嘆詞「あ!」なのだろうか。それとも…