SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

FILM

アレクセイ・ゲルマン(2013)『神々のたそがれ』

ロシア人監督による一七七分間のモノクロSF映画、と聞いて思わず身構えてしまった。途方もなく難解で、救いがたく退屈な作品ではないのか。いたずらに観念的だったりはしないかと。そうした懸念の半分は当たっていて、半分は外れていたと言える。『神々の…

ヴァージンからスーサイド アンドリュー・ニコルの栄光と自滅

ずっとアンドリュー・ニコルについて書きたいと思っていた。大学に入りたての頃、暇に飽かせて手当り次第に映画を借りた。当時観た作品の内容はもうほとんど忘れてしまったが、『ガタカ』と『トゥルーマン・ショー』だけは、いつまでも頭の片隅に残っていた…

『山田孝之の東京都北区赤羽』×『テラスハウス クロージング・ドア』

池袋HUMAXシネマズで『テラスハウス クロージング・ドア』を観てきた。公開からしばらく経った平日夜の回ということもあり、人の入りはまばら。劇場のエレベーターに乗った時点でうすうす予感していたが、ひとりで来たのはどうやら自分だけのようだ。た…

クリント・イーストウッド(2015)『アメリカン・スナイパー』

あくまでクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)という一人の男の描写に留まろうとする、強い意志。それが『アメリカン・スナイパー』の特徴だ。この作品においては、何が起きていたのかを正しく知りたい、出来事を総体として俯瞰したいという欲望が、厳…

クリストファー・ノーラン(2014)『インターステラー』

かつてパイロット兼エンジニアとしてNASAに在籍していたクーパー(マシュー・マコノヒー)は現在、不本意ながら田舎町で農業に従事している。劇的な環境変化によって農作物が次々と疫病にかかり、食糧確保が人類の死活問題となったためだ。宇宙開発にコ…

アルフォンソ・キュアロン(2013)『ゼロ・グラビティ』

『ゼロ・グラビティ』は表面的にはテクノロジーに多くを負った映画のように見える。サンドラ・ブロック演じる女性技術者は予期せぬスペースデブリ(宇宙ごみ)の大群に見舞われ、乗船中のシャトルが大破。デブリの直撃を受けた同僚は顔面に大穴を開けて絶命…

燃える箱庭 松家仁之と宮崎駿の想像力

『崖の上のポニョ』以来5年ぶりとなる宮崎駿監督作品は、ポール・ヴァレリーによる詩の一節で幕を開ける。実在した人物である堀越二郎。彼が試行錯誤を経て零式艦上戦闘機(通称・ゼロ戦)の設計に成功しながらも、押し止めようのない時流の中で敗戦を迎え…

三木聡(2013)『俺俺』

コミュニケーション能力。リレーション構築。フェイスブックで友だち申請。毎日の人づきあい、いいかげん疲れませんか。私はもう何もかも嫌になりました。現代社会に生きるわれわれの労働の対価。その多くを感情労働に対する支払いが占めています。つまりは…

存在しない「桐島」と偏在する「椎名」 ―マッチポンプ式物語批判を脱臼させる『ここは退屈』のクールネス

今年の夏は例年にもまして周囲で映画の話題が聞かれたように思う。クリストファー・ノーランによるバットマン三部作の完結編や「日本よ、これが映画だ。」なるコピーが作品以上に浸透した『アベンジャーズ』。そこへスパイダーマンも加わってアメコミ原作モ…