SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

2015-01-01から1年間の記事一覧

いろいろ年間ベスト(17件)

年末ぎりぎりになる前に、思いついた順に年間ベストを挙げていきたい。— vampire_empire (@vampire8empire2) 2015, 12月 16 【ベストテレビドラマ】 古沢良太『デート 〜恋とはどんなものかしら〜』:依子と巧の人物造形はすごくデフォルメされているはずな…

「98年」から遠く離れて ねごと『VISION』が示す到達点

2015年がもうすぐ終わろうとしている。リアルタイムの音楽を追いかけるリスナーにとって、年末年始はひときわ慌ただしい季節だ。音楽誌やブログで年間ベストチャートの類が次々に発表されるからである。思わぬ拾い物に口もとがほころぶ一方、欲しいもの…

アレクセイ・ゲルマン(2013)『神々のたそがれ』

ロシア人監督による一七七分間のモノクロSF映画、と聞いて思わず身構えてしまった。途方もなく難解で、救いがたく退屈な作品ではないのか。いたずらに観念的だったりはしないかと。そうした懸念の半分は当たっていて、半分は外れていたと言える。『神々の…

『おとなもこどもも考える ここはだれの場所?』@東京都現代美術館

美術家・会田誠と彼の家族によるユニット「会田家」の作品が撤去要請を受けた騒動で、一躍耳目を引くことになった企画展である。美術館側は公式見解を示していないが、七月二十五日付の朝日新聞デジタルによれば「撤去は要請していないと話している」という…

イービャオ・小山ゆうじろう(2014〜)『とんかつDJアゲ太郎』

ひとくちにDJといっても連想するものは人によってバラバラ。ラジオの司会者に『フルハウス』の子役、グローバルにメジャーな株価指数を算出している通信社もあれば、斯界では「鉄道ダイヤ情報」という月刊誌が有名だったりするらしい(表紙には太字でDJ…

カズオ・イシグロ(2015)『忘れられた巨人』

イシグロはこれまでも作品ごとにスタイルを大きく変える作家として知られてきた。『わたしを離さないで』はSFの要素を大胆に盛り込んだ作品だったし、『充たされざる者』は底なしの不条理を描くリアリズム度外視の意欲作だった。それゆえ、実に十年ぶりと…

ヴァージンからスーサイド アンドリュー・ニコルの栄光と自滅

ずっとアンドリュー・ニコルについて書きたいと思っていた。大学に入りたての頃、暇に飽かせて手当り次第に映画を借りた。当時観た作品の内容はもうほとんど忘れてしまったが、『ガタカ』と『トゥルーマン・ショー』だけは、いつまでも頭の片隅に残っていた…

『山田孝之の東京都北区赤羽』×『テラスハウス クロージング・ドア』

池袋HUMAXシネマズで『テラスハウス クロージング・ドア』を観てきた。公開からしばらく経った平日夜の回ということもあり、人の入りはまばら。劇場のエレベーターに乗った時点でうすうす予感していたが、ひとりで来たのはどうやら自分だけのようだ。た…

クリント・イーストウッド(2015)『アメリカン・スナイパー』

あくまでクリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)という一人の男の描写に留まろうとする、強い意志。それが『アメリカン・スナイパー』の特徴だ。この作品においては、何が起きていたのかを正しく知りたい、出来事を総体として俯瞰したいという欲望が、厳…

岩松了作・サンプル(2015)『蒲団と達磨』

岩松了による岸田賞受賞作。上演は実に二十七年ぶりだという。不明を恥じなくてはならないが、今回の舞台を観るまで、私は岩松氏のことをまったく知らなかった。事前に予習しておこうと思いネットで検索をかけると、岩松氏と、演出を手がけた松井周氏の対談…

山下澄人(2015)『はふり』

(結末部分についての記述を含みます) 語り手の立ち位置のわかりにくさをどう受け止めるか。その一点で評価の分かれる作品である。その手法に必然性と説得力を感じれば、自然と評価は高いものになる。逆もまた然り。物語はこんなふうに幕を開ける。「わたし…

九龍ジョー(2015)『メモリースティック ポップカルチャーと社会をつなぐやり方』

ライター、編集者の九龍ジョーによる初の単著。評論やインタビュー、座談会など媒体を越えて九龍の仕事がまとめられている。彼はまえがきで言う。ポップカルチャーについて書くことで、自分がどう社会とつながれるのかを考えていた。対象はばらばらでも、そ…

Rinbjo(2014)『戒厳令』

高校生の頃コンビニでアルバイトをしていた。650円という地域別最低賃金を10円刻みに丸めただけの時給と引き換えに、あたら青春を安売りしてしまった感は否めない。が、当時その判断に迷いはなかった。バイト代でとにかくCDを買いたかったのである。1…

坂元裕二(2014)『モザイクジャパン』

都内の証券会社をリストラされ故郷に帰ってきた常末理市(永山絢斗)。町はギャラクシーズというAVメーカーが進出してきたことで雇用が生まれ、にわかに活気づいていた。自身もギャラクシーズで働くことになった理市は、社長の九井(高橋一生)にこう告げ…

八木良太(2014-2015)『サイエンス/フィクション』

私たちの身の回りにはさまざまなモノがあふれている。そうしたモノたちは、それらしい形状をまとって生活に溶け込んでおり、個別に意識の対象となることはほとんどない。たとえば、誰もが知っている「たこ焼き器」を思い浮かべてみよう。正方形や円形の鉄製…

間瀬元朗(2013〜)『デモクラティア』

デモクラティアという言葉の語源は、ギリシャ語のデモス(民衆)とクラティア(支配)である。ここに状態や性質を示す接尾辞の「-cy」が加わると、私たちにも馴染みのあるデモクラシー、すなわち民主制が現れる。私たちの多くは、民主政治という体制を所与の…

クリストファー・ノーラン(2014)『インターステラー』

かつてパイロット兼エンジニアとしてNASAに在籍していたクーパー(マシュー・マコノヒー)は現在、不本意ながら田舎町で農業に従事している。劇的な環境変化によって農作物が次々と疫病にかかり、食糧確保が人類の死活問題となったためだ。宇宙開発にコ…

The Mirraz(2014)『OPPORTUNITY』

ザ・ミイラズのメジャー2枚目となるアルバム『OPPORTUNITY』が昨年10月にリリースされた。彼らは2006年に結成されたロックバンドである。メンバーの加入と脱退が複数回あったものの、全楽曲の作詞・作曲・編曲を一手に引き受ける畠山承平(Vo, G)が絶対的…

阿部和重・伊坂幸太郎(2014)『キャプテンサンダーボルト』

多くの読者は「純文学とエンタメの異色コラボレーション」という誘い文句に惹かれて、この本を手に取るのだろう。彼らはすでに阿部和重ないし伊坂幸太郎のどちらか(もしくは両方)の愛読者である可能性が高い。この小説最大の不幸は、彼ら自身のすぐれた作…