SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

イービャオ・小山ゆうじろう(2014〜)『とんかつDJアゲ太郎』

ひとくちにDJといっても連想するものは人によってバラバラ。ラジオの司会者に『フルハウス』の子役、グローバルにメジャーな株価指数を算出している通信社もあれば、斯界では「鉄道ダイヤ情報」という月刊誌が有名だったりするらしい(表紙には太字でDJのロゴ・第1巻85頁参照)。『とんかつDJアゲ太郎』に登場するのは、クラブやイベントでレコードをセレクトしミックスするほうのDJである。最初にタイトルを耳にしたときは、それがとんかつにどう結びつくのかと首をひねったものの、「だからさ、とんかつもDJもアゲるって意味では同じなんだよ。そういうマンガだから。とにかく読めばわかるから」という口コミは妙な説得力を帯びていた。なるほど手にとってみれば、これはとんかつマンガでありながら紛れもなくDJマンガであり、何よりふたつの世界を往来する勝又揚太郎(=アゲ太郎)の物語となっている。異質な素材をミックスして掛け合わせるやり方じたい、DJマナーに則っているように思えて面白い。クラブカルチャーには、その醍醐味が他のメディアを通じては伝わりくいという難しさがある。本作に出てくる言葉を借りるなら、会場でしかわかりえない「バイブス(Vibes)」があるからだ。もちろん、文章でもってバイブスに迫ろうという試みはこれまでにも行われてきた。鶴見済による『檻のなかのダンス』(98)、湯山玲子による『クラブカルチャー』(05)といった著作は、世界中のフロアの熱量をみごとに捉えたドキュメントだった。ただし、クラブに一度も行ったことのない人や思い入れのない人が、いきなり『クラブカルチャー』を読むのかと言うと、微妙なところではある。クラブについての言説の多くが、愛好家の内部にとどまってしまうもどかしさ。そこで『とんかつDJ』の斬新性がみえてくる。掲載誌の「週刊ジャンプ+」が無料のウェブ配信をベースとする媒体という特性もさることながら、ジャンプ読者に親しみのある「友情・努力・勝利」をきっちり盛り込んでいるために、幅広い層へ届きやすい仕上がりとなっているのだ。作画担当の小山ゆうじろうはカバー見返しで次のように言う。「題材は大人向けですが、小中学生たちにも、背伸びをして読んでほしいなぁ、ともちょっとだけ思っています。こっそり読まれてたりしたら最高」と。第36皿(話)は、作者の願いをそのまま具現化したようなエピソード。地方から出てきて道に迷った中学生に、アゲ太郎は渋谷界隈を案内し、クラブでDJを披露する。感銘を受けたふたりはやがてミュージシャンに……という一話である。これ、ホントに起こるかもしれない。「アゲ太郎にヤラれてDJに興味もったんです」って。2巻まで単行本で読んだんだけど、思わず最新話まで追いかけてしまいました(無料だよ!)。

とんかつDJアゲ太郎 1 (ジャンプコミックス)

とんかつDJアゲ太郎 1 (ジャンプコミックス)