SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

渡辺あや(2014)『ロング・グッドバイ』

最終話でいっきに射程が伸びた。正力松太郎がモデルの原田平蔵(柄本明)は新聞資本のテレビ局、自民党政治原発の積極推進という戦後日本の両義的な表象を一手に引き受ける存在。その正力=原田の強大さに、増沢磐二(浅野忠信)のもつ友情・信頼・仁義という美徳が対置される。時は東京オリンピックを控えた1950年代。同じように東京でのオリンピックを見据える2010年代の私たちは、正力=原田的な磁場からそれほど遠いところにいるのだろうか? 一方で増沢のような、「カッコいい「大人の男」はどこへ消えた」(新潮45に掲載された対談のタイトル)のか。チャンドラーの原作をもとに、戦後復興期の日本を舞台に作られているのに、現代社会への批評として成立している。離れた世界のできごとのようでいて、実は今日のど真ん中を撃ち抜いている。射程が伸びたというのは、そういうつもりで。