SUPPING CULTURE REVIEW

批評同人誌『PENETRA(ペネトラ)』のメンバー。ジャンルフリー、ネタバレありです。https://penetra.stores.jp

坂元裕二(2014)『モザイクジャパン』

都内の証券会社をリストラされ故郷に帰ってきた常末理市(永山絢斗)。町はギャラクシーズというAVメーカーが進出してきたことで雇用が生まれ、にわかに活気づいていた。自身もギャラクシーズで働くことになった理市は、社長の九井(高橋一生)にこう告げられる。「刑法第175条で性行為を撮影したものを販売することは禁止されている。ところが、レンタル屋に行けばアダルトビデオはある。なぜか? わかるか? モザイクがあるからだ」。あらゆるメディアには、一見そう感じられなかったとしても、何らかの制約がある。この作品が映し出すのは、従来のテレビドラマにかかっていた「モザイク」だ。NHKの予算には国会の承認が必要だし、民放はスポンサーを無視できない。映画だって赤字が続けば次回はない。けれどWOWOWならば、視聴率にも議員センセイの意向にも、短期的には収益にさえ制約されないペイチャンネルならば、タブーを恐れることなく自由にテーマを選び演出を施すことが可能となる(WOWOWの大株主がフジやTBSら民放大手だという事実は残るにせよ)。こうしてAV業界を舞台とする、淫語とセックスまみれのテレビドラマが誕生したわけだ。問題はその先で、タブー侵犯という眼目を抜きにして観た場合、『モザイクジャパン』には美点があるのかということだろう。ここでは政治的なモチーフの扱いを挙げたい。衰退に悩む地方にあまり歓迎されない産業が進出し、その恩恵ゆえに住民もそれなしでは暮らせなくなるという構図は、容易に「原子力ムラ」を連想させる。その線でいけば、社長の九井こそ悪の権化のように思える。しかし、実際はそう単純ではない。「モザイク」は従来のドラマとの対比という狭い文脈を超え、権力に都合良く操作される対象のメタファーとして再浮上する。消費増税の際に軽減税率をどの品目まで適用するのか? それとまったく同じ問題系として、性産業の広がりをどこまで合法とするのか? 政治はグレーゾーンに発生する。「ルールじゃない、大事なのはテイ(体)だ」。これは生政治ならぬ、「性政治」の物語なのである。

モザイクジャパン(本編ディスク2枚組) [DVD]

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